20世紀に渡ってモダンデザインの歴史に大きく名を刻んだデンマークの建築家兼デザイナーのアルネ・ヤコブセンの軌跡を辿る旅。今回は、彼が都市計画に携わったコペンハーゲン郊外のKlampenborgにある海水浴場、Bellevue Beach (デンマーク語: Bellevue Strand)を訪れました。
アルネ・ヤコブセンについて
デンマーク生まれの世界的に有名な建築家兼デザイナー、アルネ・ヤコブセン(Arne Emil Jacobsen、1902年2月11日 – 1971年3月24日)。シンプルなフォルムの美しさを追求した、モダン様式のデザインで知られます。デンマーク国内を中心に数々の主要建築を手がけ、またインテリアにおいても、セブンチェアやエッグチェアなどの大作を世に残しました。彼のデザインした家具は現在においても、フリッツハンセン社をはじめとした有名家具メーカーによって製造・販売されており、デザイン性と機能性に優れた彼のデザインした家具は、世界中の多くの人に愛されています。
日常世界からたった一歩踏み込めばそこには新たな物語が繰り広げられる
コペンハーゲンセントラルステーションから電車で20分弱、コペンハーゲンの中心部から北に10kmほど離れたKlampenborgという地域の沿岸部に広がるベルビュー海浜浴場(Bellevue Beach)。
Klampenborg駅を出てすぐに、一面に広がる真っ青な芝生と、700mにも続く砂浜、そして水平線上に続く海が視界に広がります。こちらの海浜浴場は、コペンハーゲン内でもよく名の知れたビーチで年間約500,000人もの人が訪れるそうです。
1930年代に生まれた新たな休日の過ごし方
労働者が合法的に休暇をとる権利を認められるようになった1930年代、休日を海で過ごすという新たなライフスタイルが徐々に人々の間に広まりつつありました。そんな当時のトレンドの中で、海の近くのリゾート地として新たに開発されたのがこのベルビュー海浜浴場。
その時すでにあった、デンマークの造園家C.Th. ソレンセン(Søren Carl Theodor Marius Sørensen, 1893年7月24日 – 1979年9月12日)によって設計された公園に、浜辺には海の家や公衆トイレなどの海浜浴場としての機能を付け加え、近隣には住宅施設を新しく建設するという形で開発が進められました。
大規模リゾート地計画におけるヤコブセンの一貫されたデザイン

ヤコブセンによってデザインされたライフガードタワー
Photo by seier+seier – arne jacobsen(2005) / CC BY 2.0
そして、1929年にベルビュー海浜浴場のリゾート型複合住宅の建設のコンペに応募されたいくつかのデザイン案から採用されたのが、当時自身のオフィスをオープンしたばかりの若きヤコブセンの”House for the Future(未来のための家)”というビジョンを抱えた案でした。
海小屋からライフガードタワー(水難事故を防ぐためにライフセーバーがビーチを監視する場所)、売店といった建物から、チケットや従業員のユニフォームといったものまで全てが彼によってデザインされました。

Bellavista Housing Estate
Photo by Hans Andersen -Bellavista housing, Strandvejen 419-451, Klampenborg(2005) / CC BY-SA 3.0
ヤコブセンがベルビュービーチのデザインを手がけた後に、付近に新しく住宅施設も建てようという話が自治体から持ち上がり、彼が新たに着手し始めたのがこのBellavista Housing Estate。フラットな屋根をもつ3階建てのU字の形をした集合住宅です。

Photo by Téchne Architectural Juxtaposition
海に面するセグメントは海の景観に配慮した2階建てのつくりになっている他、各々のアパートの部屋が直線的に繋がっているのではなく、少しずらして並んでいるデザインにすることで全ての部屋から海を見渡せるように設計されています。

The Bellevue Theater
そしてこちらは、ビーチの向かいに建つThe Bellevue Theater。
これもまた、ヤコブセンによって手掛けられた建築物の一つで、1936年にオープンしたこのシアターは、デンマーク建築のファンクショナリズム(機能主義: 建物はその建物の目的に基づいて建てられるべきという考え)の見本とされています。
この日は外から建物を見ただけだったので中の様子は見れなかったのですが、この建物のトレードマークはスライド式の屋根。屋根がスライドすると、劇場の中から空を眺めることができ、また、周りを囲む森のフレッシュな空気や潮の匂いが室内に流れ込みます。

Photo by Bellevue Teatret
1936年の8月に刊行された雑誌『Skuespilleren』の中で、このシアターの屋根についてヤコブセンがこう語っています。
”In the intermission the roof slides to the side to reveal a deep blue starry sky and a fresh wind from Øresund will in few seconds renew the air and make the audience sense, that they are by the sea and beach.”
日本語に訳すると、
「芝居の幕間には屋根がスライドし、深い青色をした満天の星空が姿を現します。それと同時に、デンマークとスウェーデンを結ぶØresund海峡の爽やかな風が一瞬のうちに流れ込み、観客たちはふと、自分たちが今海のすぐそばにいるということを感じるのです。」
屋根がスライドするのには、通常のエレベーターの仕組みが応用されているそう。
当初は夏のイベントを催すために作られたシアターですが、現在では年間を通してパフォーマンス、ダンスやショーを公演しています。夏の休日にはシアターの建築などについて学べるガイドツアーもオファーしているようです。

Bistro Bellevue
また、中にはBistro Bellevueという名前のレストランが入っていて、多くのゲストたちが、公演が始まる前の高揚と共に、または、ショーが終わった後の余韻に浸りながら楽しいひとときを過ごします。

Photo by Bistro Bellevue
レストランの店内にはヤコブセンがデザインしたインテリアが置かれ、窓からの海の景色と共に食事を楽しむことができます。
以上、ベルビュー海浜浴場の開発計画においてヤコブセンが手掛けた主要建築についてご紹介しました。ビーチから住宅、そして商業施設に至るまで、この辺り一帯ではヤコブセンのシンプルかつ機能的な一貫したデザインを感じることができますよ。
アクセス
Klampenborg駅から徒歩5分
Bellevue Beach
Strandvejen 340
2930 Klampenborg
http://www.bellevuestrandbad.dk/